漢字1文字の商標も登録できる? 任天堂の「草」商標を例に解説

漢字1文字を商品名として使いたいけど、これって商標登録できるのかな?
凄い短いし、簡単な言葉だから、なんとなく登録できない気がする…
漢字1文字などの簡単な言葉であっても、商標登録が可能な場合はあります。
以下の説明をご参考に、ご自身の商品名が商標登録できそうかご確認ください。

商標登録が可能な言葉について

商標登録が可能な言葉については、商標法に規定があり、具体的には商標法の「第3条」と「第4条」に記載されています。

3条では、その言葉に識別力、すなわち「特定の誰かの」商品やサービスについての言葉であると認識できるような力が備わっているかどうかが判断されます。

第4条では、識別力以外で商標を登録できない場合について、個別に規定されております。
例えば、「既に他の誰かが商標出願を行っている言葉は商標登録できない」(4条1項11号)、といったことが定められております。

漢字1文字の商標登録要件について

漢字1文字を商標登録することができるかどうかについては、上記の規定のうち、特に第3条が問題となります。

第3条の内容は以下のようなものとなっております。

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

商標法では、第3条のうち、第1項の第1号から第6号まで(漢数字の一から六の部分)に当てはまる言葉は、識別力がないため商標登録することができないと定められております。

任天堂の「草」商標を例に解説

この点、任天堂株式会社(以下、「任天堂」)が出願した「草」という商標を例に、漢字1文字の商標の登録可能性について検討してみましょう。

漢字1文字の言葉は「ありふれた言葉」かどうか

まず、「草」という言葉は、辞書にも載っているありふれた言葉なので、商標登録はできないのでは?という疑問が浮かびます。

これについて日本の商標法は、「指定した商品やサービスの分野において」一般的に使用されている言葉については商標登録できないという立場を取っております。

任天堂は、「草」という言葉の商標登録出願について、主にゲーム関連の商品を指定しております。

そのため、あくまでゲーム関連分野において「草」という言葉が一般的に使用されているといった事情がなければ、この点については問題は生じません。

漢字1文字の言葉は「簡単」かどうか

次に、「草」は漢字1文字と、簡単な短い言葉なので、商標登録はできないのでは?という疑問があります。

これについて、特許庁は商標審査基準で、以下の通り説明しています。
※商標審査基準:出願された商標が登録できるかを判断する上での特許庁の基準を示した資料


(1)「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当するものとは、例えば、次のものをいう。

(イ) ローマ字について
  ➀ ローマ字の1字又は2字からなるもの
  ➁ ローマ字の2字を「―」で連結したもの
  ➂ ローマ字の1字又は2字に「Co.」、「Ltd.」又は「K.K.」を付したもの。ただし、「Co.」、「Ltd.」又は「K.K.」が、それぞれ「Company」、「Limited」又は「株式会社」を意味するものと認められる場合に限る。
(ウ) 仮名文字について
  ➀ 仮名文字(変体仮名を含む。)1字
  ➁ 仮名文字のうち、ローマ字の1字の音を表示したものと認識されるもの
  ➂ 仮名文字のうち、ローマ字の2字の音を表示したものと認識されるもののうち、そのローマ字が商品又は役務の記号又は符号として一般的に使用されるもの

特許庁「商標審査基準(第15版)

以上の通り、ローマ字や仮名文字の1文字は、第3条1項5号に言う「極めて簡単で、かつ、ありふれた」言葉に当たると説明されていますが、漢字1文字については言及がありません。

従って、漢字1文字の商標は、商標法にいう「簡単かつありふれた」言葉に当たらず、商標登録が可能であると言えます。

この理由としては、漢字は1文字だけで複数通りの読みや意味が存在することが多々あり、1文字だけでも「極めて簡単」とまでは言えないからということが考えられます。

まとめ(漢字1文字の商標登録が可能かどうか)

以上より、漢字1文字の言葉であっても、以下の要件を満たしてさえいれば、商標登録が可能であると言えます。

実際のところ、任天堂の「草」商標は、現在は商標登録が認められております(商標登録第6262692号)。

漢字1文字でも、その言葉を使用する商品やサービスの分野で一般的に使用されていなければ、商標登録できる可能性はあるんだね。
それなら、僕の商標も出願を検討してみるよ!

商標登録された言葉を使っても大丈夫?

ある言葉を商標登録した場合、その言葉について商標権が発生し、他の人はその言葉を一定の範囲内で使用できなくなります。

この点、辞書などに載っている言葉が商標登録された場合、その言葉を日常会話等で使用できなくなるのではないかといった不安をお持ちの方もいらっしゃると思います。

この点について、結論としては、「商標登録された言葉であっても、日常会話で使用することは可能」です。

商標権の範囲について

順を追って説明すると、まず、商標権によって他の人がその言葉を使用できなくなる範囲(権利範囲)は、以下の通りです(こちらのガイド記事もご参照ください)。

登録商標と
同一の商標を
登録商標と
類似の商標を
登録商標と
非類似の商標を
同じ登録商品
サービスに使用
他の人は使用不可 他の人は使用不可 他の人も使用可能
類似の登録商品
サービスに使用
他の人は使用不可 他の人は使用不可 他の人も使用可能
非類似の登録商品
サービスに使用
他の人も使用可能
(※)
他の人も使用可能 他の人も使用可能

※防護標章登録による例外有。

商標登録の際には、その商標をどの商品・サービスに使用するのかを指定する必要があります。

この点、上記の表を見て頂ければ分かる通り、ある言葉が商標登録されたとしても、指定された商品・サービスとは似ていない商品・サービスに、その言葉を使う分には問題となりません。

従って、商標登録された言葉を日常会話で使用したとしても、商品やサービスの標識として商標登録された言葉を使用しているわけではありませんので、特に問題は生じません。

「草」が商標登録されたとしても、日常会話で使用できる?

「草」というネットスラング(「w」等と同じで、笑っていることを意味する言葉)があったことから、任天堂の「草」商標の出願について、「もしかしてネットスラングが使えなくなるのでは?」と一時期話題となっておりました。

しかしながら、任天堂の「草」商標は、「ゲーム用トレーディングカード」という商品を指定していますが、この指定商品への商標の使用というためには、例えば商品の名前として「草」という言葉を使用する必要があります。

日常会話で「草」というスラング用語を使用することが、上記ような指定商品への使用に当たるとは考え難いため、これまで通り「草」を使って会話しても特に問題はありません。

supervisor
この記事の監修者:
HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
大阪法務戦略部長 八谷 晃典
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