商標の登録要件としての「識別力」について 識別性 2023年6月5日 2023年6月9日 Amazing DX Support Team 商標を登録させるには、いくつかの要件をクリアしなければならないみたいだね。 具体的にはどんな要件があるのかな? 他の人の商標と自分の商標が似てなかったら問題ないのかな。 商標登録の要件として、仰るような「他の人が先に出願した商標と似ていないこと」というのもあります。 その他にも、「商標自体に識別力が備わっているかどうか」というのも要件として求められます。 商標登録の要件について 商標登録の要件については、以下の記事で詳しく解説しています。 要件をサクッと確認!商標登録するために必要なこととは 例えば、「商標に識別力があること」や「ご自身が出願した商標が、他の人が出願した商標と似ていないこと」等が商標登録の要件として課されます。 本記事では、この内の「識別力」について詳しく解説していきます。 商標の「識別力」とは 商標を登録させるためには、商標自体に「識別力」が備わっていることが要求されます。 識別力とは、簡単に言うと「この言葉(ロゴ)はあの企業のブランド名だ」と認識させるような力のことを指します。 識別力が無い商標の例 識別力が無い商標の一例として、「”キャンディ”という商品名(商標)の飴」があります。 飴の商品パッケージに「キャンディ」という言葉だけが書いてあったとして、これを手に取った方は「キャンディ」を「特定の企業のブランド名」であると認識することは無いと思います。何故なら、「キャンディ」は、単に「飴」を英語で読んだだけの言葉であって、多くの人に「飴を指し示す言葉」として一般に使われているからです。 識別力は「自他商品・役務識別力」とも呼ばれますが、ある商標をパッケージ等に記載したとして、上記のように「自」分の商品と「他」人の商品とで区別がつかない(識別できない)場合は識別力が無いと判断されます。 一方で、商標が造語であれば、上記のような事態にはなりにくいため、識別力があると判断される場合が多いでしょう。 識別力と商品・サービスの関係 ちなみに、識別力の有る無しは、商標を使用する商品・サービスによって大きく左右されます。 商標は出願する際に、「その商標を、どういった商品・サービスに使用しているのか(使用する予定があるのか)」を指定する必要があります。この点、「キャンディ」という商品名を商標出願した際に、「飴」という商品を指定したとしても、上記の理由から識別力が無いとして登録されないと考えられます。 一方で、「商標は必ずしも造語でなければならない」というわけではありません。 例えば、「Apple」という有名なIT企業があり、この企業名は当然ながら商標登録もされていますが、「Apple」は辞書にも載っている一般的な英単語でもあります。これは、「IT関連の商品・サービス」の分野において、「Apple」が商品・サービスの名称として一般的に使用されている言葉ではないことが理由として考えられます。 すなわち、辞書に載っている言葉であっても、指定した商品・サービスの分野で一般的に使用されていなければ、商標登録できる可能性はあるということになります。 識別力に関する具体的な要件について 以上で識別力要件についての一例を紹介しました。以下では、「識別力」について具体的にどのような要件があるのか、見ていきたいと思います。 要件1:商標が「普通名称」ではないこと まず、商標が「普通名称」ではないことが識別力の要件として挙げられます。 商標法3条1項1号その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 「普通名称」とは、上記の「キャンディ」の例のような、指定した商品・サービスの一般的な名称として認識されている言葉のことを指します(商標審査基準)。 一方で、この要件の適用があるのは、普通名称を「普通に用いられる方法」で表した場合です。そのため、とても独特な形のロゴで書かれた「キャンディ」という言葉などは、もはや「普通に用いられる方法」では表されていないとして、識別力有りと判断される可能性があります。 また、普通名称「のみ」で構成された商標が対象となっているため、普通名称と他の言葉を組み合わせて商標登録を受けられる可能性はあります。 その他に、特定の商品分野で他の人にも一般的に使用されるようになった結果、元々は普通名称では無かった特定の企業のブランドが普通名称となることもあります。このような現象は、「普通名称化」等と呼ばれたりもします(以下の記事で詳しく解説しています)。 意外な商標登録!?有名商標の登録例と商標の普通名称化 要件2:商標が「慣用商標」ではないこと 次に、商標が「慣用商標」ではないことが挙げられます。 商標法3条1項2号その商品又は役務について慣用されている商標 「慣用商標」とは、元々は識別力があったものの、特定の商品・サービスの分野で慣用的に使用されるようになった結果、識別力が無くなった商標のことを指します(商標審査基準)。 内容的に上記の「普通名称化」と似ていますが、この要件では言葉(名称)以外も対象となる点が注目されます。 例えば、商標審査基準では、「カステラ」という商品について「オランダ船の図形」が慣用商標に当たるとされています。 要件3:商標が「商品・サービスの品質等を表すもの」ではないこと 次に、商標が「商品・サービスの品質等を表すもの」ではないことが挙げられます。 商標法3条1項3号その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 この要件はかなり広い概念を含みますが、一言で言えば「商品やサービスの特徴を表示するもの」と認識できるような商標がこれに該当します(商標審査基準)。 また、以下のような商標も本号に該当します。 商標「オイシーイ」(指定商品「牛肉」) 商標「アカルーイ」(指定商品「蛍光灯」) 商標「ハヤーイ」(指定サービス「車両による輸送」) 他にも、地名のみの商標も、商品の産地やサービスの提供地を表していると判断され、登録できません。 なお、普通名称と同じく「のみからなる」要件があるため、「商品・サービスの特徴を表す言葉+他の要素」といった組み合わせにより、商標登録を受けられる可能性はあります。 要件4:商標が「ありふれた氏または名称」ではないこと 次に、商標が「ありふれた氏または名称」ではないことが挙げられます。 商標法3条1項4号ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 「ありふれた氏または名称」とは、同種の氏または名称が多数存在するものを指します(商標審査基準)。 ありふれた氏に当たるかどうかは個別に判断されるものの、「佐藤」「田中」「伊藤」等は本号に該当するものと考えられます。 なお、本号も「のみからなる」要件があるため、商標の結合により登録できる可能性はあります。 しかしながら、氏を含む商標については、本号以外にも別途4条1項8号の問題がありますので、識別力の問題をクリアしたからといって登録が受けられるとも限りません(以下の記事で詳しく解説しています)。 要注意!登録できる?人名の商標登録・出願について 要件5:商標が「極めて簡単かつありふれたもの」ではないこと 次に、商標が「極めて簡単かつありふれたもの」ではないことが挙げられます。 商標法3条1項5号極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標 極めて簡単な商標の例としては、例えば「ローマ字1~2字からなる商標」や「仮名文字1字からなる商標」が挙げられます(商標審査基準)。また、数字のみの商標は、原則として本号に該当し登録できません。 なお、「漢字1字からなる商標」については、ローマ字や仮名文字と異なり登録できる可能性があります(以下の記事で詳しく解説しています)。 漢字1文字の商標も登録できる? 任天堂の「草」商標を例に解説 要件6:商標が「上記の他に識別力がないもの」ではないこと 上記の他にも識別力が無い商標は、3条1項6号に抵触し登録することができません。 商標法3条1項6号前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標 審査基準(商標審査基準)では、本号に該当する商標の一例として、以下のようなものが挙げられています。 商品・サービスとの関係から、数量の単位等を表す商標として認識されるもの(「メートル」「グラム」など) 元号として認識されるに過ぎない商標 地模様(模様的に連続反復する図形等)からなる商標 【3条2項】使用による識別力の獲得について なお、上記のような要件を満たさない商標であっても、商標を長い間継続的に使用した結果、「特定の企業のブランド名だ」と需要者に認識されるようになることはあると思います。 このような商標は、上記の要件の例外として、3条2項で登録を受けることができる可能性があります(商標審査基準)。 商標法3条2項前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。 本項の適用を受けるためには、出願商標と実際に使用している商標が、外観において同じである必要があります。※商標が厳密には一致しない場合であっても、商標の同一性を損なわないものであれば適用が認められます。 また、特定の企業の商標として、需要者の間で全国的に認識されている必要もあり、条件は中々厳しいです。 また、本項の適用を受けられるのは、3条1項3号から5号に該当する商標のみです。そのため、普通名称(1号)や慣用名称(2号)に該当する商標については、本項があるからといって登録することはできませんので注意が必要です。 ちなみに、3条1項6号も本項の対象外ですが、審査基準上、「使用の結果、特定の人の商標であると認識できるようになっている場合」、6号には該当しないとされています。 識別力だけでも色々な要件があるんだね! 長年使っていれば登録できる可能性があるっていうのはロマンがあっていいね。 まとめ 上記の通り、識別力だけでも様々な要件があります。 本記事をしっかりと読んで、ご自身の出願したい商標が識別力の点で問題ないか、今一度ご確認ください。 もしご自身での判断が難しい場合は、弁理士等の専門家へ一度ご相談頂くことをお勧めします。 お問い合わせ この記事の監修者: HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK 大阪法務戦略部長 八谷 晃典 スペシャリスト, 弁理士, 特定侵害訴訟代理人, 監修者