「ボクササイズ」はボクシングジムが所有する登録商標ってご存じですか? 識別性 2023年5月24日 2023年6月9日 Amazing DX guide 「ボクササイズ」で商標権侵害! 「ボクササイズ」の名称を使って、市民講座を開いていた自治体が、「ボクササイズ」の商標権者からの指摘で、賠償金を支払ったってニュースで報道されていたよ。 驚いたな。「ボクササイズ」って巷で良く聞く言葉だから、商標登録されていたなんて、思いもしなかったよ。 「ボクササイズ」は商標登録されていますから、商標権者に無断で使用すれば、商標権侵害になり得るとも考えられますね。 しかし、このように広く認知されて一般的に使用されている商標は「普通名称化している」とも考えられますね。 確かにそうだね。でも、商標が普通名称化すると、どうなるの? 商標「ボクササイズ」の権利侵害問題とは 「ボクササイズ」は、ボクシングの要素を取り入れたエクササイズの一種です。有酸素運動でありながら、パンチなどのボクシングの動作を行い、ストレス解消に効果があると人気のエクササイズです。 近年、健康志向の高まりに伴い、スポーツジムなどでは「ボクササイズ」のエクササイズの講座が開かれています。 ところが、ある地方自治体が「ボクササイズ」の教室を開催したところ、「ボクササイズ」の商標権者から、商標権の侵害であるとして通知を受け、賠償金・和解金を支払うことになる、という事案が起こりました。 特許庁のデータベース(J-PlatPat:特許情報プラットフォーム)を見てみると、確かに商標「ボクササイズ」は登録されていました。登録商標の商標権者は、民間のボクシングジムとなっています。指定役務は「第41類:ボクシング式有酸素運動その他のスポ―ツ又は知識の教授」です。 この商標権者は、商標「ボクササイズ」を無断で使用した多くの個人、団体に対して、同様に、商標権侵害による賠償金の支払いを求めてきました。 「ボクササイズ」って世間で広く使われている名称ですよね。「ボクササイズ」を使った人達は、おそらく「ボクササイズ」が登録商標だとは知らず、普通名称だと考えていたことでしょう。 商標の普通名称化 商標の重要な機能として、「自他商品等識別機能」があります。 つまり、自社の製品であることを示すことが商標が果たすべき大切な機能ですが、造語として登録された商標であっても、広く認知されることにより、一般化し過ぎて、固有のものを示すものとして機能しなくなってしまうことがあります。このような商標は「普通名称化した」とされ、商標権の効力が及ばなくなるのです。 例えば、「巨峰」(ぶどう)、「うどんすき」、「正露丸」は、裁判所により普通名称との判断が示されています。「サニーレタス」、「ポケベル」は、特許庁により普通名称との判断が示されています。 また、「ガチャ」(カプセルトイ)、「プラモデル」、「QRコード」といった登録商標は、一般的に広く使われており、商標の「自他商品等識別機能」を果たしている、と言い難い状況になっているといえます。「えっ!登録商標なの! てっきり普通名称かと思ってた!」と思われた方もいるのではないでしょうか。 普通名称には商標権の効力は及ばない! 商標法では、26条で「普通名称には商標権の効力が及ばない」と定められています。 (商標権の効力が及ばない範囲)第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標 このように定められているため、普通名称化した商標については、他者に使用されたとしても、権利を主張することができません。 権利侵害を訴えてきた商標権者に対して、「普通名称に該当するから、商標権の効力が及ばない範囲での使用である」と主張することも考えられるのです。 「普通名称化」の判断は、裁判所や特許庁が普通名称化したと判断する場合や、商標を所有する企業が普通名称化したと自主的に判断して商標の存続を終了させる場合があります。 普通名称化した商標は取り消すことができる? 日本では、登録商標が普通名称化したとして、第三者が商標登録の取り消しを請求することはできません。商標「うどんすき」は、裁判所が普通名称化したと判断していますが、登録は存続しています。商標権者が普通名称化したと判断し、商標登録の更新をせず放棄すれば、権利は消滅します。 一方、米国や欧州など、商標が使用に伴い普通名称化すると、その商標登録に対して取消審判を請求し、登録を取り消すことができる、という制度がある国もあります。 なるほど。登録商標であっても普通名称化すると、商標権者は権利を主張することができなくなるんだね。 まとめ 普通名称かと思って使用したら実は登録商標だったため、商標の権利者から権利侵害との通知を受けた、というような事案に遭遇したら、その登録商標が普通名称化していないかを、一度検討してみてください。ただし、そのような判断には専門的な知識が必要ですので、弁理士に相談することをお勧めします。 当事務所では、商標に関するご相談や侵害対策など、あらゆるシーンで知財に関するサポート、コンサルティングサービスを提供いたします。ご相談・ご依頼などお気軽にお問合せフォームからお問合せ下さい。商標専門の弁理士がご対応いたします。 この記事の監修者: HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK 大阪法務戦略部長 八谷 晃典 スペシャリスト, 弁理士, 特定侵害訴訟代理人, 監修者