商標法上の「使⽤」と権利侵害について

新製品の販売が決まったから商品名をいくつか考えたんだけど、既に登録されているものもあったんだ。
使っても⼤丈夫かな︖
商標法上の「使⽤」⾏為に該当する場合、商標権の侵害になる可能性があるので注意してください。
侵害︖︕侵害したらどうなるの︖
それと商標法上の「使⽤」って、普通に使うこととどう違うの︖
侵害してしまったら、使⽤の差し⽌め、損害賠償責任を追うなどのリスクがあります。
商標法上の「使⽤」の意味と併せて詳しく⾒ていきましょう。

登録商標をつかったら即侵害になるの?

新商品のネーミング候補が挙がったら、商標調査をして、登録可能性を確認するということは、ご存じの⽅も多いでしょう。
いちばんお気に⼊りの候補が既に登録されている場合、何とか使える⽅法を探したいということもあると思います。
この記事では、商標法上の「使⽤」とは何かを詳しく説明し、既に登録されている商標を使う場合のリスクについても併せて解説します。

商標権侵害とは︖

まず、どのような場合に商標を権侵害になるのか、確認しましょう。

登録商標を使うと、どのような場合でも侵害になるのかというと、そうではありません。
商標権は、登録商標をその指定商品、役務について独占的に使⽤できる権利です。(商標法第25条)。
よって、商標権の範囲は、出願の際に指定し、特許庁の審査において登録が認められた商品やサービスの範囲に限定されます。*
そのため、登録商標と同じ/類似の商標を、その指定商品/役務と同じ⼜は類似の商品/役務に使⽤する場合は、他⼈の商標権を侵害してしまうことになります。
⼀⽅、商品やサービスが全く異なり、関連しない場合は、その商標を使っている商品の出所が混同するおそれがないため、他⼈が登録している商標と同じものを使⽤しても問題になりません。


*商標登録出願の申請時は、商標のみを出願するのではなく、その商標を使う予定の商品やサービスを指定します。
*登録/出願商標が指定している商品、サービスのことを指定商品/役務といいます。

商標法上の「使⽤」とは︖

商標を使うといっても、単にその商標(マーク)を使うということと、商標法上の商標の使⽤⾏為は異なります。
登録商標と同⼀/類似の商標を次の様に使⽤した場合は、商標権の侵害となります。

商標法上の「使⽤」の定義

商標の「使⽤」⾏為は商標法第2条第3項各号に規定があります。


商標法第2条第3項
この法律で標章について「使⽤」とは、次に掲げる⾏為をいう。
⼀ 商品⼜は商品の包装に標章を付する⾏為
⼆ 商品⼜は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展⽰し、輸出し、輸⼊し、⼜は電気通信回線を通じて提供する⾏為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利⽤に供する物(譲渡し、⼜は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する⾏為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利⽤に供する物に標章を付したものを⽤いて役務を提供する⾏為
五 役務の提供の⽤に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利⽤に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展⽰する⾏為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する⾏為
七 電磁的⽅法(電⼦的⽅法、磁気的⽅法その他の⼈の知覚によつて認識することができない⽅法をいう。次号及び第⼆⼗六条第三項第三号において同じ。)により⾏う映像⾯を介した役務の提供に当たりその映像⾯に標章を表⽰して役務を提供する⾏為
⼋ 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展⽰し、若しくは頒布し、⼜はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的⽅法により提供する⾏為
九 ⾳の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し⼜は役務の提供のために⾳の標章を発する⾏為

⼗ 前各号に掲げるもののほか、政令で定める⾏為


10号まであるのですが、代表的なものを分かりやすくいうと、次のような⾏為が商標法上の「使⽤」となります。

商標的使⽤とは︖

また、商標には⾃他商品識別標識として、その商品の出所を識別する機能がありますが、
その機能を発揮しないような使⽤⽅法の場合は、商標的使⽤に該当せず、侵害とならない場合があります。
例えば、商品「⻭磨き」について他⼈の商標「PIKAPIKA」が登録されている場合、⾃社の「⻭磨き」の包装に、「この⻭磨きを使うとピカピカに磨けます」などと宣伝⽂句を記載(類似の商標を表⽰)しても、「ピカピカ」の部分は、単に商品を使ったときの効果を表していると認識され、「ピカピカ」の部分から誰の商品であるかを認識し得ないために、商標的使⽤とならず、侵害には該当しません。

商標権の効⼒が及ばない範囲

商標権は⾮常に強⼒な権利ですので、商標権の効⼒を⼀律に及ぼすとなると、本来の⽬的(商標保護により取引秩序の維持と産業の発達に貢献する)とは逆に経済活動に⽀障をきたすおそれがあります。
そこで、商標法は26条で商標権の効⼒が及ばない範囲を規定しています。


商標法第26条 商標権の効⼒は、次に掲げる商標(他の商標の⼀部となつているものを含む。)には、及ばない。
⼀ ⾃⼰の肖像⼜は⾃⼰の⽒名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に⽤いられる⽅法で表⽰する商標
⼆ 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、⽤途、形状、⽣産若しくは使⽤の⽅法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格⼜は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の⽤に供する物、効能、⽤途、態様、提供の⽅法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に⽤いられる⽅法で表⽰する商標
三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の⽤に供する物、効能、⽤途、態様、提供の⽅法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格⼜は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、⽤途、形状、⽣産若しくは使⽤の⽅法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に⽤いられる⽅法で表⽰する商標
四 当該指定商品若しくは指定役務⼜はこれらに類似する商品若しくは役務について慣⽤されている商標
五 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標

六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何⼈かの業務に係る商品⼜は役務であることを認識することができる態様により使⽤されていない商標


つまり、⾃⼰の⽒名や、会社の名称と同じ登録商標があった場合でも、⾃⼰の⽒名や会社名を⽰すものとして、製品等に使⽤する場合は、商標権の効⼒は及びません。
また、商品やサービスの普通名称や品質等を表す商標が仮に登録された場合であっても、商品の普通名称や品質を表すものとして普通に使⽤する場合は、商標権の侵害とはなりません。


ちなみに、26条には地理的表⽰(GI)を使⽤する⾏為について、不正競争の⽬的がない場合には、商標権の効⼒が及ばない旨も規定されています。

先使⽤権について

上記以外にも、商標権の効⼒が及ばない場合があります。
未登録の商標が需要者の間で周知になっていた場合は、継続して使⽤することができるというものです(32条)。
例えば、あるサービス名称を使⽤した結果、そのサービス名称が⾃⼰のサービスを表す名称として周知になっている場合、同じ名称の商標が出願され、登録されたとしても、引き続きそのサービス名称を使⽤することができるというものです。

侵害した場合のリスクとは?

ここまで、商標権の侵害となる⾏為や、侵害とならない⾏為についてご説明しました。


では、商標権を侵害してしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。
商標権を侵害した場合、商標権者からその商標の使⽤差し⽌めや、侵害⾏為により商標権者やライセンシー等の正当な権利者に損害が発⽣した場合、その損害賠償を求められます。
また、侵害⾏為により不当な利益を得ている場合、不当に得た利益を商標権利者へ返還するよう請求されることもあります。
商標権の侵害となると、損害賠償をしなければならなくなり、当然、商標を別の商品名に変更する必要があります。
商品名を変更するまで商品の販売を停⽌しなければならなくなり、逸失利益が⼤きくなってしまうリスクもあります。

商品がヒットして⼤きく話題になったあとで、商標権の侵害が発覚するケースもあります。
ヒット商品が話題になって商標権者が侵害に気づくパターンです。

商標権侵害訴訟ともなれば更に世間の興味関⼼を引き、予想外に会社のイメージを失墜させてしまうことにもなりかねないため、商標権侵害のリスク回避をする事は⾮常に重要です。

侵害になる場合と侵害した場合の詳しい説明は以下リンクの記事をご覧下さい。

商標権侵害とは?侵害にあったらどうしたらいい?

登録商標のチェック⽅法

それでは、既に誰かが同じ商品名を商標登録しているかどうか、どうやって調べればよいでしょうか。
登録商標や出願中の商標は特許庁の「J-platpat」というデータベースで確認することができます。特許庁の公開データベースなので無料で検索できます。

「J-platpat」のウェブサイトで商標と指定商品/役務を指定し、検出された商標については、現在どのような状態(審査中又は登録済)になっているかや権利者等を確認することができます。

J-platpatでの検索方法についての詳しい説明は以下リンクの記事をご覧下さい。

3分でわかる!商標登録の検索方法

なお、amazingDXでも無料で、簡単に調査を行うことが可能です。

これらのウェブサイトで登録商標を調べて、どのような商品名がよいのか十分に検討する必要があります。

侵害を回避するには︖

それじゃ、自分が使いたい商品名が、既に登録されている場合は、どうしても使っちゃいけないの?
使える場合はあります。
①先行商標の譲渡・ライセンスを受ける②商標を変更する③先行商標を不使用による取消すの3つの方法を説明します。
よかった。じゃあ3つの方法のうちどれが当てはまるか検討しつつ、最終的にどうするか方針を決めればいいんだね。

使いたい商品名が先に商標登録されてしまっているのが分かった場合、諦めるしかないでしょうか?
どうしても使いたい場合はどうすればいいのでしょうか。
それには、下の3つの方法があります。

①譲渡・ライセンスを受ける
商標権者から商標権を譲渡してもらったり、商標の使用許可(ライセンス)をもらいます。しかし、同じ業界で棲み分けができている場合はともかく、競合している場合に譲渡やライセンス許諾を得るのはなかなか簡単ではありません。商標権者がその商標を実際に使っていないような場合であれば、譲渡やライセンス交渉はしやすいでしょう。

②商標を変更する
類似商標と判断されないように、商標に他の語や文字を追加します。この場合、商標全体が外観上一連一体の態様で分離して認識されないように使用します。商標登録しておくことも必要でしょう。

③不使用による取消
登録商標であっても、指定商品/役務について継続して3年間その登録商標を商標権者等が使用していない場合、その商標を取り消すために特許庁に審判を請求することができます(不使用取消審判)。
特許庁へ不使用取消審判を請求したら、商標権者側がその商標の使用を証明しないかぎり、その商標登録は取り消されます。
登録が取消されたら、誰でも自由にその商標を使えることになるので、また先に誰かに取られる前に、今度は自分で出願して権利を取得しておく必要があります。
日本は先願主義のため、不使用取消審判請求前に出願しておいたほうが無難でしょう。

Amazing DXで検索!

どうしても先に登録された商標と同じ商標を使いたい場合に、取り得る手段はなくもないですが、結局はいずれの方法でも商標が安全に使用できるまでには相当の時間がかかります。
そのため、新製品の商品名を決めるという段階で、あらかじめ複数候補を挙げておき、前もって先に登録された商標の有無を調べて使用できる商標かどうかを十分検討しておく必要があります。

Amazing DXでは、簡単に先に登録された商標の有無をチェックすることができます。
使える商品名だと分かったらすぐにAmazing DXの商標検索を使ってご自身で簡単に商標出願をすることができます。もちろんチャットで弁理士に相談しながら進めることも可能です。

もし自分が使いたい商標が先に誰かに登録されている商標だった場合は、取消が可能か等、取り得る手段を弁理士に相談することも可能です。お問い合わせフォームよりお問い合わせください。

supervisor
この記事の監修者:
HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
大阪法務戦略部長 八谷 晃典
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