地名が含まれる商標は登録できる? できる場合・できない場合について解説 商標出願前 2023年1月18日 2023年10月4日 Amazing DX Support Team 地名が含まれる商標の登録 『江戸切子』、『なると金時』、『今治タオル』みたいに、特産品をアピールして地域を盛り上げるような商標を考えたいな! 今おっしゃった特産品は「地域団体商標」という制度のもとで登録されていて、一定の条件をクリアして登録されているものです。 通常の商標登録では、「地名のみ」や「地名+商品(サービス)の一般名称」からなる商標については、原則、登録が認められませんので注意してください。 最近は、地域の特産品が注目され、ブランド化に成功した例をよく見かけます。多くの企業でも、地名を含んだ商標を考えることがあるかもしれません。しかし、「地名のみ」や「地名+商品(サービス)の一般的な名称」からなる名称は、原則的には商標登録することができません。 地名が含まれる商標が登録できないことがある理由 産地などの表示に当たる可能性がある 商標法では、以下の商標は登録できないとしています。 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 商標法第3条第1項第3号 例えば、「大阪お好み焼き(地名+商品の一般的な名称)」という名称を考えてみましょう。このような名称を見ると、単に「大阪で生産されたお好み焼き」を思い浮かべると思います。これでは誰のものか分からないですよね。(これを「識別力がない」と言います) 特定の個人・企業が、「大阪お好み焼き」という商標を出願し、これが登録を認められてしまうと、どうなるでしょうか?大阪でお好み焼きを販売・提供している権利者以外の飲食店などは、自由にお好み焼きの提供を行うことが難しくなってしまう可能性があります。 ここでポイントなのが、たとえ実際に産地となっていなくても、産地だと認識される可能性があれば登録できない可能性があるということです。ですので、地名が含まれる商標を出願しようとするときは、慎重になったほうがよいでしょう。 これに関連して、地名を含む場合、産地等を誤認させる可能性があるとして商標登録が認められないことがあります。 公序良俗に反するおそれがある では、地名を誰も商売に使っておらず、産地などの表示になる心配がなければ、登録してもよいのでしょうか? 地名は、特定の個人・企業が独占して使用するものではなく、その地域に関わる多くの個人・企業が使用すべきものです。たとえば、「特定個人や特定企業が地名商標を登録したことで、地域のイベントやお祭りが妨害されてしまった」などの場合、公序良俗違反で登録が無効になることもあります。 例外的に地名を含む商標が商標登録されるケース 原則的に、「地名のみ」や「地名+商品(サービス)の一般名称」からなる名称は商標登録することができないことをご説明しました。しかし、例外的に地名が含まれる登録商標が存在します。 商品の産地や役務の提供地とは認識されないと考えられる場合 地名が商品の産地や役務の提供地とは認識されないと考えられる場合には、登録が認められることもあります。 例: 『北極』 商標登録第6690683号(指定商品: せっけん類など) また、 日本の取引者にほとんど知られてない地名の場合 地名だと認識できないような書き方の場合 も、商品の産地や役務の提供地とは認識されづらいため、登録が認められることもあります。 例: 『イルガッチェフェ』 登録第4955562号 じゃあ、誰も知らないマイナーな地名なら登録できるんだね? 実際の線引きは地域の事情など様々なことを考慮しなければならず、とても難しいので、安易な自己判断は禁物です! 『イルガッチェフェ』の事例も、出願人がエチオピア国であることに注意してください。 使用によって「目印」になった場合 「出願しても登録にならない商標」に該当する商標であっても、使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、登録を受けることができる、と規定されています(商標法第3条第2項)。 いわば、誰のものか分からない「地名」から、誰のものか分かる「目印」になった場合は、商標登録が可能になることがあります。 この場合、上記の商標の使用によって自己と他人の商品・役務とを区別することができるまでに至ったことの説明として、実際に使用した商標及び商品・役務や使用した期間、地域、生産量、広告回数等を証明する証拠書類の提出が必要となります。 代表的な例 『夕張メロン』(商標登録第2591067号、等)「夕張メロン」は、全国的に広く認知され、単に産地を示すものではなく、他のメロンと識別できるまでに至ったので、登録が認められました。 『ジョージア』(商標登録第2055753号)一度は「GEORGIA」が産地等を表示するとして裁判で登録が認められなかったものの、使用によって他のコーヒーと識別できるまでに至ったので、登録が認められました。 <参考>第3条第2項(使用による識別性)の審査基準(PDF:240KB) 商品(サービス)の一般的な名称ではない語との組み合わせ 試しに「大阪〇〇」や「〇〇大阪」を特許情報プラットフォーム”J-Platpat”で検索してみると、たくさんの登録例があることがわかります。 これら登録例は、・商品(サービス)の一般名称との組み合わせではないこと(地名でない部分に識別力があること)・特徴的なロゴや図形との組み合わせであること・使用により識別力を獲得していること等により、登録が認められているものと考えられます。 地名が含まれる商標を考えたい際には、上記のような方法を考えてみましょう。 地名以外の部分で、自社の製品だとすぐに認識してもらえるような特徴を出せば、登録が可能な場合もあるんだね。 地域団体商標制度 『江戸切子』、『なると金時』、『今治タオル』などの登録商標も存在します。これは「地域団体商標制度」を利用し登録されているものです。 制度の名前のとおり、ある特定の地域を取りまとめている協同組合などの団体が商標登録を行う制度であるため、個人や企業が利用できる制度ではありません。これなら、模倣品から地域を守りつつ、地域で商標を使っていくことができますね。 地域ブランドを保護し、地域経済を活性化させることを目的として導入され、特許庁もこの制度を利用した商標登録には積極的な姿勢を示しています。 地域団体商標は、文字のみで構成されていること、地域に根ざした団体の出願であること等、要件を満たす必要があります。概要は以下のリンクページをご確認下さい。 地域団体商標制度とは?商標出願の種類ついて解説します ● 地域団体商標制度とは | 経済産業省 特許庁 中国・台湾で日本の地名や、自身の商標が他者により出願登録された場合の総合的支援策について 特許庁によると、中国・台湾において日本の地名や自身の商標、地域ブランド等が第三者によって出願登録される事例が相次いでいるとのことです。これによって現地でのビジネス展開に支障が生ずるリスクへの対処をお考えの方は、特許庁が行っている支援について、ホームページで確認してみて下さい。 <【特許庁】中国・台湾で日本の地名や、自身の商標が他者により出願登録された場合の総合的支援策について> まとめ 地名が含まれる商標は、消費者に信用を与えたり、ブランドとしての価値が高まったりすることが期待できます。 しかし、一個人・一企業の方が商標として出願するためには、単なる産地表示に見えないかどうか等を考慮する必要があります。商標出願される場合は、識別力のある語との組み合わせや、特徴的なロゴや図形との組み合わせがおすすめです。 ご自身が考えた名称で、「地名が含まれているけど商標登録できるのだろうか?」と悩まれている方は、当所へご相談ください。商標専門の弁理士がサポートします。Amazing DXのチャットやお問い合わせフォームをご活用下さい。 この記事の監修者: HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK 大阪法務戦略部長 八谷 晃典 スペシャリスト, 弁理士, 特定侵害訴訟代理人, 監修者