商標登録出願の注意点~英語表記の商標を出願するときは?~

実は、ITに特化した新たな会社を立ち上げたんだ。まずは日本語表記で考えた会社名や主要なサービス名を商標出願したよ。
これに対して、社内では英語表記もあった方が良いのではないかという意見が出ているんだよね。そうしたらこれも出願しておいた方が良いのかな?

早めに出願を検討することはとっても大切です。でも、その英語名は商標として本当に使用しますか?
使用しないと、せっかく登録した商標が取り消されしまうこともあるんです。
英語表記に関する商標登録の要件などと合わせて、簡単に確認しておきましょう。

とりあえず早く出願すれば良いってわけじゃないのか。英語表記の商標はどういったことに注意すれば良いのかな?

英語表記でも商標登録できる

日本で登録できる商標の種類は、「文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」です(商標法第2条)。そのため、英語表記の商標はもちろん登録が可能です。また、その出願方法も日本語の商標の場合と同じとなっています。

標準文字制度の活用

英語表記の文字商標は、標準文字制度を使用することができます。

<「標準文字制度とは」>

・文字のみにより構成される商標について特別の態様を権利要求しないとき、特許庁長官があらかじめ定めた文字書体をその商標の表示態様として公表し、登録する制度

・この制度を使用することで、書体が決まっていない状態でも出願が可能のため、文字のデザイン性にまで保護を求めていない場合にはいち早く出願することが可能

・先行商標との比較が文字列および称呼のみの確認で済むため、登録の妨げになる登録商標が見つけやすい等のメリットがある

この制度を使用するための条件の一つとして、特許庁長官の指定文字のみで構成された商標であることがあげられています。この指定文字にはアルファベットも含まれているため、英語表記の文字商標についても本制度の使用が可能となっています。なお、その他の指定文字である、ひらがな・カタカタ・漢字(一部を除く)等と混ぜ合わせた商標においても適用対象となります。

登録ができるのは「使用する商標」

商標法の保護対象は「商標」ではありません。「商標」を使用することでそれに蓄積された「業務上の信用」を保護しています。そのため、商標登録の要件の一つとして、商標法第3条第1項柱書では次の通り規定されています。

自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、(中略)商標登録を受けることができる。

ここでいう「使用する」とは、現在使用している場合に限らず、今後使用する予定がある場合も含まれます。つまり、その指定商品・役務において、当該商標の使用の意思があれば本規定を満たすと判断されるということです。

とはいえ、出願時に使用の意思を証明する書類等の提出は求められておらず、すべての出願に対して逐一確認が取られるというわけでもありません。そのため、出願商標の使用の意思が証明できない段階であっても、その商標の登録が認められることは多くあります。ただし、ここで注意が必要なのは不使用取消制度の存在です。

不使用による商標の取消

不使用取消制度とは、商標権者が継続して3年以上登録商標を使用していない場合に、誰でも当該商標を取り消す旨の審判を請求することができる制度です。これに対して商標権者が当該商標についての使用の事実を証明できない場合には、その商標登録が取り消されてしまいます。

例えば、「もしかしたら使用するかもしれない」ということで自社商品の英語名について商標出願をし、登録されたとします。しかし、その登録から3年が経っても英語名の登録商標の使用に至っていない場合には、不使用取消審判を請求され、登録が取り消される危険性が生じます。また、使用していない期間は「継続して3年以上」であるため、登録直後は使用していたとしても、継続して3年以上使用の事実がない場合には、取り消されてしまう恐れがあるということです。

使用していると認められるためには

登録が取り消されないようにするためには、商標を使用することが大切です。ただし、ここで使用する商標は、登録商標と同一(または社会通念上同一と認められる)ものに限られます。

【登録商標と使用商標の同一性が認められる場合】

  1. 同一の文字で、書体のみが異なる
  2. 大文字と小文字の違いのみである
  3. 縦書きと横書きの違いのみである
  4. 文字の種類(ひらがな・カタカナ・英語)が異なるが、称呼(読み方)と観念(意味)が同じである  

  ※「4.」の例;「love」と「ラブ」、「hotaru」と「ほたる」 

【登録商標と使用商標の同一性が認められない場合】

  1. 平面商標と立体商標とで異なる場合
  2. 英語とその和訳(ひらがな、カタカナ、漢字等)※英語とその和訳から生じる称呼(読み方)や観念(意味)が異なるものに限る

  ※「2.」の例;

例えば、会社の正式名が英語だから英語表記で商標登録したとします。しかし日本においては、その英語名をカタカナ変換した表示の方が親しまれていることから、実際に商品に付していた商標はカタカナ表記のみであったとします。

この時、その英語表記とカタカナ表記とで、称呼(読み方)や観念(意味)が異なる場合には、その商品については当該登録商標の使用が認められないと判断される可能性があるということです。つまり、登録商標を維持するためには、登録商標と同一の態様にて使用することが重要となります。

なるほど。商標が登録されても、登録した英語表記のままのものを3年間使用していなかったら取消されてしまう可能性もあるんだね。
会社の立ち上げにたくさん費用がかかっているから、せっかくお金をかけて登録した商標が無駄になってしまうのは痛手だなあ。

もちろん、日本では先願主義を採用しているため、商標を安全に確保するためには早めの出願がおすすめです。
しかし、商標の出願も登録(維持)も無料でできるというわけではないため、出願の必要性や費用対効果等を考慮することも大切ですね。
では、ここからは出願する場合に備えて、英語表記の商標に関する登録審査時の注意点を確認していきましょう。

登録できない英語商標

商標法第3条第1項各号では、識別力が無いことを理由に登録できない商標の要件が規定されています。どれも注意が必要ですが、その中でも特に英語表記の商標と関わりの深い要件をご紹介します。

商品やサービス名を英語にしたもの(同項1号)

商品やサービスの普通名称を英語で表示する商標は、登録が認められません。普通名称とは、その商品やサービスの一般的な名称や略称、俗称を指します。

(該当例)

ただし、普通名称と同じ発音でも、スペルを変更した造語の場合には登録が認められる可能性もあります。

極めて簡単でありふれたもの(同項5号)

極めて簡単であり、ありふれた構成の商標についても、登録が認められていません。例えば、商品の品番や規格等を表した記号として一般的に使用されるもの等が該当します。

(該当例)

  1. ローマ字1字又は2字からなるもの
  2. ローマ字2字を「―」で連結したもの(※ローマ字2字を「&」で連結したものは該当しません)
  3. ローマ字1字又は2字に「Co.」「Ltd.」「K.K.」のいずれかを付したもの(※「Co.」「Ltd.」「K.K.」がそれぞれ、会社等の種類名を意味するものと認められる場合に限る)
  4. 合計2字以下のローマ字と数字を組み合わせたもの(※その指定商品・役務を取扱う業界において、商品・役務の記号等として一般的に使用されるものに限る)
  5. 簡単な輪郭(△・□・〇等)内に、上記1.~4.のいずれかを記したもの
  6. 先行商標との類否判断

商標法第4条第1項第11号では、既に登録されている商標と同一または類似する商標については登録が認められない旨が規定されています。ここでは、英語表記の商標における類否判断についてご説明します。

★商標の類否判断(似ているかどうか)は、「称呼(読み方)・外観(見た目)・観念(意味合い)」の3つの基準によって判断されます。

称呼の比較

日本における商標登録の審査段階では、称呼が共通することのみをもって類似と判断されることが一般的です。日本語ではあまりありませんが、英語ではスペルが異なっていても同じ読み方をする単語が数多くありますよね。商標の類否判断において、それらは類似と判断される可能性が極めて高くなっています。また、日本語と英語で外観が全く異なる商標でも、その読み方が共通しているものは類似しているとされる可能性があるため、英語の商標については読み方により注意する必要があります。

(類似と判断される可能性が高い例)

外観・観念の相違

ただし、近年の傾向から、称呼が同一であっても、それぞれの商標から生じる意味合いが異なる場合には、非類似と判断されることもあります。

(非類似と判断された例)

外国での商標登録にむけて

英語表記の商標は、今後海外展開をした際にも使用する可能性が高いですよね。日本で既に出願している商標と同一のものについて、出願から6か月以内であればパリ条約に基づく優先権を主張して外国出願を行うことが可能です。これにより、当該外国出願は、日本で既に出願している商標の出願日に出願したとして審査をうけることができ、類否判断等が優先的な扱いを受けることができますよ。

英語表記の商標の注意点について、大体わかったぞ。この商標登録が今すぐ必要かどうか検討するためにも、まずは英語表記の商標の使用予定をもう一度見直してみようかな!

出願の前に先行商標を確認しよう!

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Amazing DX®商標調査 出典:https://amazing.dx.harakenzo.com

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参照:特許庁「商標審査基準〔改訂第15版〕」

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Supervisor for the article:
HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
森山 浩 
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