「阪神優勝」の商標登録について

「阪神優勝」の商標登録が注目されたきっかけ

プロ野球チームの中だと阪神を応援してるんだけど、今年は優勝するのかなぁ。
今後の試合に注目したいところですね。そう言えば、2003年に阪神タイガーズがセリーグで優勝した際、「阪神優勝」という登録商標が巷の話題になったことがありますよ。
え、本当?教えて!

「阪神優勝」の文字と図形からなる結合商標について、2002年2月に商標登録されたことが当時話題となりました。出願人は阪神タイガースとは関係のない千葉県の男性であり、ロゴTシャツ等の商品を販売していたことも報道されました。
本記事では、事件の概要を紹介したうえで、問題点について考察してみることにします。

第三者による商標「阪神優勝」の商標権取得の経緯

阪神タイガースとは全く関係がない千葉県の男性が商標「阪神優勝」について商標権を取得した経緯は以下の通りです。

阪神が優勝したのは2003年ですので、阪神が優勝したのを知ってから出願をしたのではない、という点が本件の特徴であります。

上記の商標登録の手続きの結果、第三者である千葉県の男性は、本件商標について、阪神タイガーズがセリーグで優勝する前年(2002年)に商標権を取得しました。

阪神球団側による無効審判の請求

プロ野球の阪神球団側は、阪神タイガースと全く無関係の赤の他人による商標登録の無効を求めて特許庁に無効審判の請求を行いました。

本件商標の無効審判の経緯は以下の通りです。

阪神が優勝した同じ年に請求した阪神球団側による無効審判により、第三者による商標登録第4543210号は無効となり、この結果、第三者による本件商標についての商標登録は最初からなかったものとみなされました。

審判請求から審決までの期間は4カ月未満であり、特許庁も本件の社会的影響の大きさを十分認識して迅速な審理を行ったことが窺えます。

無効審決の詳細

無効審判の審決では、本件商標は、その構成中に「阪神タイガース」の球団名称の著名な略称である「阪神」の文字を有することに加え,その構成中に阪神タイガースとの連想性を高める要素となっている図形部分を有し,需要者の多くは,一般の消費者であるから,これを指定商品に使用する場合,阪神タイガース又はこれと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じさせるおそれがある(商標法4条1項15号)、と判断されました。

以下、特許庁の商標審決公報からの抜粋を引用します。

【種別】無効の審決
【審判番号】無効2003-35360
【審判請求日】平成15年8月28日(2003.8.28)
【確定日】平成16年1月26日(2004.1.26)
【事件の表示】
 上記当事者間の登録第4543210号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
【結 論】
 登録第4543210号の登録を無効とする。
【理 由】
第1 本件商標
 本件登録第4543210号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成13年3月15日登録出願、第25類「被服,ガーター,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第28類「遊戯用器具,おもちゃ,人形,運動用具」を指定商品として、同14年2月8日に設定登録されたものである。
第2 請求人の主張
(略)
第3 被請求人の答弁
(略)
第4 当審の判断
1 利害関係について
(略) 
2 「阪神」等の著名性について
(1)本件商標の登録出願前から現在に至るまで、我が国においてプロ野球に関心を持つ者が多いことは、周知の事実である。
(2)甲第3号証ないし甲第25号証、甲第34号証ないし甲第36号証、甲第40号証ないし甲第48号証、甲第50号証ないし甲第52号証によれば、以下の事実が認められる。
 (ア)「阪神タイガース」は、請求人のプロ野球球団の名称として昭和36年より現在に至るまで使用され、我が国において、人気のあるプロ野球球団の一つであること(当事者間に争いがない事実)。そして、その観客数は、昭和36年から平成13年の間に行われた請求人が主催した試合のみに限ってみても、およそ6689万人であること(甲第3号証)、平成11年(1999年)5月29日、同30日に行われた阪神戦の視聴率は、いずれも20%を越える高い視聴率であり(甲第6号証)、テレビ観戦者を加えると、阪神タイガースの試合観戦者は膨大な数に上るものと推測されること。
 (イ)「阪神タイガース」の球団名称は、本件商標の登録出願前より、各スポーツ新聞、各スポーツ誌をはじめ、日本経済新聞を含む一般紙のスポーツ欄、家庭欄、社会欄などにおいても、単に「阪神」と略称され、同略称は、頻繁に使用されていたこと。そして、このような状況は本件商標の登録査定時(平成13年12月20日)においても継続していたこと。
 また、「HANSHIN」の文字は、昭和38年ころより現在に至るまで、「阪神タイガース」の選手が着用するビジター用ユニフォームの胸部に大きく表示され、球場やテレビで試合を観戦する者の目に自然と止まるばかりでなく、試合の結果等を報道する新聞や雑誌等に選手の姿とともに写し出されている場合が多いこと。そして、例えば、読売ジャイアンツ(巨人)側が主催する試合の昭和50年(1975年)から平成13年(2001年)の間の観客数は、およそ1840万人であったこと(甲第50号証)。
 (ウ)阪神タイガースの球団旗は、別掲(2)のとおり、黒色と黄色とを交互にした横縞を地とする横長矩形内に、赤地円形内に虎の頭部を描いた図形を左上部に配し、右下の黄色の縞部分には「HANSHIN Tigers」の文字を表示してなるものであるところ、該球団旗は、試合中には、観客の注意を惹くスコアボードの上部に掲げられ、また、応援団がこれと同一の構成よりなる旗を使用して応援し、常に観客の目の触れる状態にあること。
(3)上記(2)で認定した事実及び(1)の事実を総合すれば、「阪神」の語は、そのローマ字表記である「HANSHIN」とともに、阪神タイガースの球団名称の略称として、本件商標の登録出願日には既に、一般国民の間に広く認識されていたものである。また、別掲(2)の構成よりなる標章は、阪神タイガースの試合等で使用される球団旗として、本件商標の登録出願時には既に、著名なものとなっていたものである。そして、これらの著名性は、本件商標の登録査定時においても継続していたと認められる。
3 本件商標について
(1)「阪神」の文字部分について
 本件商標構成中の「阪神」の文字部分については、以下の事実が認められる。
 「阪神」の語は、一般的には、「大阪と神戸」を意味するものであるとしても、前記2(3)で認定したとおり、「阪神タイガース」の著名な略称であること。また、本件商標構成中の「阪神」の文字部分には、「競技などで第一位で勝つこと」等(広辞苑)の意味を有する「優勝」の文字が結合されていること。加えて、「阪神優勝」の語が「阪神タイガースの優勝」の意味合いをもって、本件商標の登録出願前より使用されていること(甲第16号証、甲第35号証及び甲第54号証ないし甲第59号証)。
 以上の事実を総合すると、本件商標構成中の「阪神」の文字部分について、後記5で認定する本件商標の指定商品の需要者である一般の消費者は、地名を表したと理解するというより、プロ野球の球団名称としての「阪神タイガース」の略称として理解し、認識するとみるのが極めて自然である。
 したがって、本件商標構成中の「阪神」の文字部分は、「阪神タイガース」の球団名称の略称を表したものとして認識されるというべきである。
(2)図形部分について
 本件商標は、別掲(1)のとおり、「阪神優勝」の文字と左右の辺が右側に傾斜する略平行四辺形の内部に横縞を有する図形とを結合してなるものであるところ、該図形部分中の上下に配された各2本の太い平行線は、中央に書された「阪神優勝」の文字部分を挟むように表現されているものである。
 一方、阪神タイガースの球団旗は、前記2(2)(ウ)で認定したとおり、黒色と黄色の横縞を地とし、虎の図形を左上部に、また、「HANSHIN Tigers」の文字を右下に表示してなるものであるところ、上記虎の図形部分及び「HANSHIN Tigers」の文字部分は、黒色と黄色の横縞と共に、球団旗の主要な構成要素となっていることは否定し得ないが、虎(タイガース)をイメージした黒色と黄色の横縞が看者に極めて強い印象を与えるものであることも否定し得ない。
 そして、該黒色と黄色の横縞は、上部より黒色で始まり、順次黄色、黒色と交互に配され、最下部は黒色で終わっているもので、黒色の横縞は、上部と下部の2本に加え、真ん中の黄色を挟んで中央に2本配され、全体としては、4本の黒色と3本の黄色の横縞からなっているものである。
 そうすると、上記構成よりなる本件商標にあって、図形部分は、「阪神優勝」の文字部分が、前記認定のとおり、「阪神タイガースの優勝」の意味合いをもって使用されていることを合わせ考慮すると、「阪神優勝」の文字部分の上下にある各2本の太い平行線が、上記球団旗の黒色の横縞をイメージしたものとして印象付けられ、「阪神タイガース」との連想性を高める要素となっているものというのが相当である。
4 取引の実情
(1)プロ野球球団が、リーグ戦の開催中やリーグ優勝あるいは日本シリーズに優勝した際には、その球団を運営する法人と資本関係にある企業又は同法人の許諾契約を受けた企業が「(球団名)応援セール」、「(球団名)優勝セール」等と称して多くの商品の販売を行っていることは、本件商標の登録出願前よりよく知られているところであり、このことは、甲第93号証及び甲第94号証によっても明らかである。
(2)甲第75号証ないし甲第82号証(枝番を含む。)及び甲第93号証によれば、阪神タイガース(請求人)は、本件商標の登録出願前より、「阪神タイガースグッズ」と称して、阪神タイガースのキャラクターや球団旗等を表示したアパレル商品、ユニフォーム、野球用具、玩具等様々な商品を阪神タイガース(請求人)自ら又は請求人より許諾を受けた業者により製造、販売してきた。また、過去において優勝した際には「優勝記念セール」と称して、阪神タイガース(請求人)と資本関係のある百貨店などで優勝を記念したセールを行ったことが認められる。
5 出所の混同について
 前記2ないし4で認定した事実によれば、本件商標は、その構成中に「阪神タイガース」の球団名称の著名な略称である「阪神」の文字を有することに加え、その構成中に阪神タイガースとの連想性を高める要素となっている図形部分を有するものである。
 また、本件商標が使用される指定商品の需要者の多くは、一般の消費者である。
 したがって、本件商標は、これをその指定商品について使用する場合は、上記需要者をして、該商品が阪神タイガース(請求人)又はこれと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。
6 被請求人の主張について
(略)
7 結論
 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものと認められるから、請求人のその余の主張について検討するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものとする。
 よって、結論のとおり審決する。

問題点について

「阪神優勝」の言葉が使用できない?

「阪神優勝」報道に関しては、 個人が本件商標を商標登録したことにより、あたかも、阪神球団が「阪神優勝」の言葉を使えなくなるかのような誤った報道がありましたが、以下の理由から、誤報といえます。

①阪神の優勝という普通の言葉を普通に用いる分には商標登録されていても使用できること。
②登録商標を独占的に使用できるのは、その商標権の指定商品・指定役務(サービス)について商標として使用する場合であるため、これに該当しない使用をする分には問題ないこと。
③本件商標は、文字だけではなく図形を組み合わされて登録されたものであり、図形を含めて使用する場合はともかく、文字のみを普通に使用する分には問題はない、と見られること。

なぜ特許庁は「阪神優勝」の商標登録を一度は認めたか?

特許庁の担当審査官に聞いてみないと本当のところはわかりませんが、さまざまな論者から以下のような推測がなされました。

①「阪神」の語が、一般的には「大阪と神戸」を意味する地域名を示すので登録された。
②本件商標の構成中、「阪神」自体に識別力があり、かつ、「優勝」の漢字についても登録商標が存在していたことから、これらの組合せである「阪神優勝」の漢字4文字は、全体として一つの識別標識として機能し得る、と考えられた。

商標ブローカーは儲かる?

他人が欲しがりそうな商標を先に取っておき、高額で売りつける人を「商標ブローカー」などと呼びます。本件商標を出願した個人が商標ブローカーであるかどうかはさておき、実際のところ、商標ブローカーとして利益を上げることはかなり困難です。理由としては以下が挙げられます。

①商標登録のための出願料と登録料にかなりの費用がかかる。
→費用をかけて商標権が高額で売れなければ大赤字となる。
②商標を一定期間使用していない場合、不使用取消審判により登録が取り消されてしまう。
→商標ブローカーは自分では商標を使用しないので、取り消される可能性が高い。
③商標権の譲渡に大金を出せるような大企業は最初から必要最低限の商標を出願している。
④出願しても、本件同様、出所混同を理由に拒絶される。また、登録されても、無効審判により登録が無効とされる。

商標制度は、「自分が使用している商標を保護する」ことを前提としていますので、商標ブローカーの行為は制度の悪用と言えます。

阪神ファンにとっちゃ、「阪神」=「阪神タイガーズ」だよね。
そうですね。ただ、商標出願の審査では先願主義により先に出願した人が有利とされています。本件の場合、「阪神」が高い知名度を有していたため、阪神球団側の審判請求が認められて商標登録が取り消されましたが、多くの場合では、先に商標登録されてしまってトラブルに発展することがあります。
そっか。商標登録をしようと思ったら、事前に専門家に相談した方がよさそうだね。

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この記事の監修者:
HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
大阪法務戦略部長 八谷 晃典
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