商標の先使用権が認められる要件とは?特許事務所の解説

この間、創業当初からずっと使用しているうちの商品の名前が、商標権侵害だと、同じ商品を製造している△△会社から警告を受けたんだ!うちの商品は、この商品名〇〇でずっと商売を続けていて、〇〇といえばうちの商品と、大概のお客さんもわかってくれている。今更、商品の名前も変えたくないし、DXくん、どうしたらよいか教えてくれないか。
その商品名について商標登録されておらず、△△会社の登録商標の出願日より以前からその商品名をずっと使用されていたんですね。この場合、先使用権が認められる可能性があります。先使用権が認められると、その商品名をこれからも使用することができますよ。
先使用権というのがあるんだね。教えてくれてありがとう。さっそく特許事務所に相談してみるよ。

1.商標の先使用権とは?

先使用権(先使用により商標の使用をする権利)とは、他人の登録商標と同一又は類似の商標を、その登録商標が出願される前から継続して使用し、かつ、その商標が周知(自己の業務にかかる商品・サービスを表示するものとして需要者の間に広く認識されていること)になっている場合、引き続き、その商標を使用することができる権利のことです。

例えば、菓子について「さくら」という商標を使用していた者Aは、その後に、菓子について「さくら」という商標を登録した他人Bがあっても、商標「さくら」が周知になっている場合、Aは商標「さくら」を引き続き使用することができるという権利です。つまり、商標「さくら」が周知商標となっている場合、先使用権は、Aがその後継続して使用する限りは、その企業努力によって蓄積された信用を既得権として保護しようとするものです。

ただし、先使用権が認められるためには、後から説明する種々の要件を満たす必要があります。

先使用権は、本来的に、周知商標が過誤登録された場合の救済規定といえます。つまり、本来「さくら」という周知商標がある場合、商標法第4条第1項10号に該当し、Bは商標登録を受けることができなかった筈です。Bの商標は、過誤により登録されたと考えられます。この場合、もしAが「さくら」を使用したいと考えれば、無効審判を請求してBの商標権を無効にする必要があるのですが、これには時間と費用が掛かります。そこで、Aに先使用権を認め、あえて無効審判を請求するまでもなく、未登録商標「さくら」を使用することができるようにしたのです。

また、不正競争の目的なく周知商標が登録された場合には、除斥期間の適用があるため(第47条第1項)、登録後5年を経過した場合、無効審判を請求することができません。先使用権は登録後5年を経過しても認められるため、登録後5年を経過した場合に特に実益があります。

2.先使用権の要件

それでは、次に先使用権の要件について説明します。先使用権は以下の条件を充足するとき認められます。

(1) 他人の商標登録出願前から日本国内で使用していること
(2) 他人の商標登録出願の際、周知になっていること
(3) 継続して使用すること
(4) 不正競争の目的がないこと
(5) 業務を承継した者も同様である

2-1.出願前から使用

他人の商標登録出願より先に、その商標を日本国内で使用している必要があります。

2-2.周知性

周知性とは、先に述べたように、自己の業務にかかる商品・サービスを表示するものとして需要者の間に広く認識されていることです。

周知性を要件としたのは、相当程度周知でなければ、先使用権によって特別に保護するに値する財産的価値が生じないと考えるためです。

(周知性の範囲)
それでは、「広く認識されている」とはどの程度のことをいうのでしょうか。日本全国にわたって広く知られている必要があるのでしょうか。それとも、一市町村で知られている程度でよいのでしょうか。
先使用権の周知性は、第4条第1項第10号(未登録周知商標)の周知性と同程度とされています。すなわち、「一地方において広く知られている」場合と判断されます。一地方の範囲については、様々な見解があり、商品の種類・性質・業態・取引の実情等からケースバイケースで判断される場合が多いようです。

(周知性の獲得時点)
「その商標登録出願の際、現に」周知である必要があります。したがって、出願後に周知となった場合は、今現在周知性があってもこの要件を満たしません。また、以前に周知性があっても、出願時に周知性がなくなっていた場合も先使用権は認められません。

2-3.継続して使用

先使用権の成立時点(他人の商標登録出願前から)、商標権者等から差止請求等を受けた時点まで、その商標を継続して使用している必要があります。長く使用を中断すれば、その間に保護すべき信用が減少または消滅してしまうからです。

ただし、使用の中断がまったく認められないわけではなく、中断の理由、中断の期間、周知性の程度などを総合的に考慮して、一時的な中断が許容されるか否か判断されます。

また、業務をやめてしまった場合、継続使用は終了し、先使用権も消滅します。たとえ、その後業務を再開しても先使用権は復活しません。

2-4.不正競争の目的なし

不正競争の目的とは、他人の信用を利用して不正な利益を得る目的のことです。出願前から一般的な態様で使用している場合、特段の事情がない限り、不正競争の目的はないと推認されます。

2-5.承継

先使用権者から、使用している商標にかかる業務を譲り受けた場合、その譲受人は、先使用権を主張できます。先使用権は、業務の承継の時期が、出願の前または後であるかにかかわらず、発生します。

先使用権は、業務の承継を伴う場合のみ認められ、単独で先使用権のみを移転させることはできません。

3.その他

(判定の対象)
先使用権があるか否かについて判定(商標法28条)を求めることができます。

(混同防止表示請求)
商標権者または専用使用権者は、先使用権者に対し、自己の業務に係る商品・サービスと、先使用権者の業務に係る商品・サービスとの混同を防ぐために、適当な表示を付すことを請求することができます。

これは、ライセンス契約等の場合と異なり、先使用権は商標権者の意思によらないで発生し、かつ、発生後に商標権者の規制が及ばないことに考慮して規定されたものです。

4.先使用権の立証

先使用権が認められるために、周知性を獲得していることの証拠とか必要なのかな?
はい。先使用権の立証責任は、先使用権を主張する側にあります。特に周知性の要件の立証は難しいため、先使用権が認められるハードルは少し高そうです。周知性の証拠の例としては次のものがあります。
i)実際に使用している商標と使用している商品、サービスがわかる資料
ii)商標を使用し始めた時期がわかる資料
iii)使用している地域がわかる資料
iv)商品等の売上高・販売数等の資料
v)広告の態様・広告費・広告の回数/地域等の資料
vi)webサイトのURL、アクセス数等
先使用権を主張するには、事前に、十分な準備が必要ということだね。DXくん、商標の差し止め請求に対して先使用権を主張して対抗できるということを教えてくれてありがとう。

5.地域団体商標と先使用権

地域団体商標についても、先使用権が発生します。
地域団体商標の先使用権の要件には、以下のように周知性の要件が入っていません。

(1) 他人の商標登録出願前から日本国内で使用していること
(2) 継続して使用すること
(3) 不正競争の目的がないこと
(4) 業務を承継した者も同様である

これは、地域団体商標は、本来、何人も使用しうることとされていた商標であり、周知性を獲得していないからといって先使用権を認めないとすると、団体に属さない事業者が、その商標を使用して業務を行っている場合、事業ができなくなり、商標権者と第三者の利益の衡平を失するためです。

先使用権の立証には、時間と費用がかかります。使用している商標を登録されていない場合、早めに商標登録出願をされることをお勧めします。商標登録をしておくと、以下のメリットがあります。他人の商標を侵害していないことが確認でき、使用している商標を他人が先に商標登録することを防ぐことができ、登録商標を真似された場合、差止請求ができます。

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この記事の監修者:
HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
大阪法務戦略部長 八谷 晃典
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