商標法違反の罰則って?商標に詳しい特許事務所の解説

この前、発売した我社の新商品の名前なんだけど、A会社から、A会社の商標権を侵害しているとして警告が送付されてきたんだ。我社としては、A会社の商標を真似したわけではなく、我社が独自に考えた名前がたまたまA会社の登録商標と同じだっただけなんで、警告は無視してこのまま販売を続けようと思うんだ。
そうなんですか。でも、それは非常にまずい対応ですよ。貴社が独自に考えた商品名であっても、登録商標と同じ商標で指定商品も同じなら、A会社の商標権を侵害することになります。その上、警告を受けても製造販売を続けていると、故意に商標権を侵害しているとして刑事罰が科せられる可能性があります。
ええっ、それは本当!?そんな大変なことになるとは知らなかった。本当にA会社の商標権の侵害になるか、とりあえず特許事務所の弁理士に相談してみるよ。

1.商標法違反とは?

 商標法第78条から85条まで、商標法違反行為の罰則が規定されています。これらの罰則規定は、実質的に刑法の一部となります。刑法と同様に、未遂犯および過失犯は罰せられませんが、故意犯(故意に違反した者)は、この規定により罰せられます。損害賠償や差止請求は、過失であっても請求できるので、少し趣が違いますね。
 また、非親告罪のため、被侵害者(商標権者)の告訴がなくても被疑者を告訴することができます。 
 近年、商標法違反の刑罰は非常に重くなっており、例えば、商標権侵害の場合、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金刑またはその両方が科せられます。

2.商標法違反の種類

商標法違反として、商標法には以下の罰則が規定されています。

(1)侵害の罪:第78条
(2)間接侵害の罪:第78条の2
(3)詐欺の行為の罪:第79条
(4)虚偽表示の罪:第80条
(5)偽証等の罪:第81条
(6)秘密保持命令違反の罪:第81条の2
(7)両罰規定:第82条
(8)過料:第83-85条

以下、どの様な場合に商標法違反となるのか、またその罰則について、具体的に説明します。

3.商標法違反と罰則

1.侵害の罪

商標権の侵害とは、何の権限もなく他人の登録商標を、指定商品・役務(サービス)について勝手に使用する行為です。

罰則
・10年以下の懲役
・1000万円以下の罰金
・懲役刑と罰金刑の併科
  懲役刑と罰金刑の両方が科せられる場合があります。
・両罰規定の適用
  法人の場合は、行為者とは別に、法人に対して3億円以下の罰金が科せられる場合があります。
・非親告罪
  商標権者の告訴がなくても被疑者を告訴することができます。

商標法違反は刑事事件であるため、侵害者が商標権を侵害することに気づかなかった場合は、侵害者に刑事罰は科せられません(差止・損害賠償は請求される可能性があります)。けれども、商標権者から商標権侵害の警告を受けた後も、侵害行為を停止しないで不誠実な対応をしていると、故意の商標権侵害と判断され刑事事件に発展する可能性があります。また、将来請求される損害賠償の額も増加する結果となります。

近年、商標権侵害の罰則は、抑止効果を高める観点から、非常に重いものになっています。侵害者は、逮捕を免れたとしても社会的信用を喪失し、高額な罰金、差止、損害賠償を請求され、事業の存続が困難になる場合もあります。
このため、他人の商標権を侵害しないよう、充分に注意することが必要です。

2.間接侵害の罪

商標法第37条には、間接侵害として、禁止権での使用(1号)と、予備的行為(2~8号)が規定されています。簡単に説明すると、以下の行為が該当します。

① 登録商標の類似範囲(禁止権)での権限のない他人の使用
② 商品またはその包装に商標を付したものを、譲渡・引渡・輸出のために所持する行為
③ 役務の提供を受ける者の利用に供する物に商標を付したものを、これを用いて役務を提供するために所持・輸入する行為
④ 役務の提供を受ける者の利用に供する物に商標を付したものを、これを用いて役務を提供させるために所持・輸入する行為
⑤ 商標の使用をするために商標の表示物を所持する行為
⑥ 商標の使用をさせるために商標の表示物を譲渡・引渡・譲渡/引渡のために所持する行為
⑦ 商標の使用をし、または使用させるために商標の表示物を製造・輸入する行為
⑧ 商標の表示物の製造専用物を業として製造・譲渡・引渡・輸入する行為

第37条は、一般的に登録商標に化体された信用を害する恐れの強い行為、つまり本来的な商標権(指定商品または指定役務について登録商標の使用を占有する権利:商標法第25条)の侵害を、類似の商品及び商標に拡大するとともに、その予備的行為を侵害そのものとみなして商標権の保護に完全を期そうとするものです。

工業所有権は侵害が行われやすく、その中でも特に商標権は侵害されやすいため、登録商標に化体された信用の喪失を招きやすい上、その回復も容易で無いことから商標権の禁止権を25条の権利以上に拡大させてその保護の万全を図っています。

罰則
・5年以下の懲役
・500万円以下の罰金
・懲役刑と罰金刑の併科
  懲役刑と罰金刑の両方が科せられる場合があります。
・両罰規定の適用
  法人の場合は、行為者とは別に、法人に対して3億円以下の罰金が科せられる場合があります。
・非親告罪
  商標権者の告訴がなくても被疑者を告訴することができます。

3.詐欺の行為の罪

 詐欺の行為により商標登録、存続期間の更新登録、登録異議の申立についての決定または審決を受けた者。
 詐欺の行為、例えば、審査官を欺いて虚偽の資料を提出し、商標登録の要件を欠く商標について商標登録を受けた場合、国家の権威や機能が害されるため刑罰規定が設けられています。

罰則
・3年以下の懲役
・300万円以下の罰金
・両罰規定の適用
  法人の場合は、行為者とは別に、法人に対して1億円以下の罰金が科せられる場合があります。
・非親告罪
  商標権者の告訴がなくても被疑者を告訴することができます。

本罪で可罰行為であっても、その登録または審決の効力には影響を与えません。つまり無効とされない限り、登録商標の商標権は維持されます。

4.虚偽表示の罪

商標法第74条に規定する虚偽表示(登録商標でない商標に、商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付す行為等)の禁止規定に違反した者。

罰則
・3年以下の懲役
・300万円以下の罰金
・両罰規定の適用
  法人の場合は、行為者とは別に、法人に対して1億円以下の罰金が科せられる場合があります。

5.偽証等の罪

宣誓した証人、鑑定人、又は通訳人が、特許庁等に対し、虚偽の陳述、鑑定、または通訳をしたときは本条により罰せられます。
虚偽の陳述とは、証人の記憶に反する陳述であって、内容が客観的真実に合致しているかどうかは問われません。また、虚偽の鑑定とは、鑑定人の所信に反する意見ないしは判断の陳述であって、真実との一致・不一致は問題となりません。

罰則
・3月以上10年以下の懲役

事件の判定の謄本の送達、または登録異議申立についての決定/審決前に、罪を犯した者が自白したときは、その刑を減額、免除することができます。

6.秘密保持命令違反の罪

秘密保持命令による営業秘密の保護の実効性を確保する観点から規定されました。

罰則
・5年以下の懲役
・500万円以下の罰金
・両罰規定の適用
  法人の場合は、行為者とは別に、法人に対して1億円以下の罰金が科せられる場合があります。
・親告罪
  告訴が無ければ公訴を提起することが出来ません。

本規定を親告罪としたのは、保護されるべき営業秘密が、刑事裁判において公開されるリスクがあるため、その訴えを営業秘密の保有者にゆだねたことによります。

まだ、過料というものもありますが、大体はこんな感じです。文字商標やロゴなど、気軽に真似したくなる場合もありますが、商標の意図的な模倣は立派な犯罪です。
うん。よくわかったよ。これからも商標についていろいろ教えてほしいな。
はい、まかせてください!

使用を予定している商標について、まだ商標調査をされていない場合、早めに商標調査をして商標登録されることをお勧めします。商標登録をすると、他人の商標を侵害していないことが確認でき、使用している商標を他人が先に商標登録することを防ぐことができます。

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この記事の監修者:
HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
大阪法務戦略部長 八谷 晃典
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